スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

小説感想:笠井潔『青銅の悲劇』

 『吸血鬼と精神分析』から始まった、わたしの矢吹駆シリーズ読み、やれやれようやくここまで辿り着いたって感じです。これで刊行されてるのは読み終えたから、自分の中で一区切りつけることが出来ました。めでたし、めでたし。

昭和の最期が迫った1988年末、神職を受け継ぐ旧家の当主、鷹見澤信輔は冬至の神事の後、探偵小説作家宗像冬樹とナディア・モガールも招かれていた会食の席上、トリカブト毒による毒殺未遂で倒れた。だが、それは鷹見澤家を襲う悲劇のはじまりにすぎなかった。矢吹駆シリーズ日本篇第一作。

あらすじ読むと、横溝正史を思い浮かんだ。作者も、読んだことあるみたい。そりゃそうだよね、一通り読んだからこそ、本格探偵小説否定が出来るんだもんね。

↓以下ネタバレあり
 矢吹駆が登場しない代わりに、作者が宗像になり代わって登場したと思われる。

 どうして青年は抽象的な観念世界に魅力を感じるのか。自分が少し偉くなったように感じられるからだろうか。少なくとも斑木や私の場合は違った。親達がリアルなものと感じ、その場で納得して生きられた日常世界から宿命的に追放されてしまう者がいる。

 
 ↑どうやら、この斑木が矢吹駆の本名らしい。美少女風視に誘われて学生運動に参加した宗像も、『熾天使の夏』の彼等とは違うセクトで活動していた。駆と風視が付き合ってたことは知っていたが、爆破事件に駆が関わっていたことも、風視が親の会社を爆破したことも子供を産んでいたことも知らなかった。
 響の父親については何も語られていない。『熾天使の夏』でも風視は子供の父親の名は明かさなかった。母親に子供を託すと言って自殺したが、子供の性別や年齢についても双子の妹が居ることも記されて無かったような気がする。駆に似ていたとしたら、宗像とナディアが気づかないわけないから、違うのかな? 探偵小説愛好家に、いかにも……ってのを匂わせておいて肩透かし食らわす作者だから、関係無いのかも。

 

西欧の哲学や思想や文学に、ようするに遠隔の対象に観念的欲望が向けられたのは、生まれ育った「村の家」に居場所がないと感じたからだ。私の場合は「町の家」だが。より高い世界をめざして知的に上昇したのではなく、選択の余地なく追いやられたというしかない。


 斑木と宗像の境遇が似てる気がする。パリで宗像が処女作を最初に見せた友人が、斑木となっている。アラサーになって探偵ごっこから遠ざかっていたナディアが言うには、矢吹駆は行方不明になっている。
 森博嗣のMシリーズのヒロイン萌絵も、大学生の頃は夢中だったが、犀川先生の関心が四季博士に向いていると焦ってから、興味失っていったもんね。探偵ごっこってある年齢になったら、飽きるものなのか。いや、ナディアの場合も、駆が居なくなったせいかも。
 この作品で、ナディアは二度目の来日らしい。目的は、駆が日本に来ると踏んで、殺すために。何があったんだろう? 駆に、お父さんかポールおじさんでも殺されたのか。連載の二作まで読んで無いから、解からない。

p344探偵小説の第一作を刊行した直後のことだ。結末で犯人が突き止められ処罰される探偵小説は、警察権力や支配的制度を讃える小説でしかないと左翼インテリに批判された。彼らは極悪非道の殺人犯であろうと、警察には絶対に引き渡さないで野放しにするだろう。
 こうした空論家のほとんどが、夜道で強盗に襲われたら交番めがけて一目散に逃げるに違いない。倫理的に完全無欠であるという自己像を、ひたすら守り続け信じ続けることにしか関心がないのだ。守銭奴が金貨の壺にしがみつくよりも卑しい自分の姿を、この連中は決して見ようとしない。


 うんうん、こう言うひと居そう。でも、人って誰でも、何かにしがみついて居るんじゃないのかな? 
 乙一の『ZOO』で、東大に入れなかったら生きてる意味が無い! とハイジャック犯になっちゃった青年を思い出した。彼は糠漬けの才能があり、それをネットで売りさばいて結構な収入があるにも関わらず、幼き頃から母に刷り込まれた、東大に入れなかった自分の価値を見いだせない。ぜんぜん違うか?

p464近代ヒューマニズムの本場にも魔女狩りや異端審問の過酷さは生き続けている。国家に銃で刃向えば、刃向った人間を国家は躊躇なく射殺するのだ。とにかく生け捕りにして謝らせようとする日本の権力と、どちらが抑圧的なのだろう。 
 特高は築地署で共産党幹部の小林多喜二を拷問し虐殺した。しかし、多喜二の殺害が警察の上層部で組織的に決定されていたわけではない。ようするに現場の暴走で、逆さ吊りにした共産党員を竹刀で殴り続けているうちに、たまたま死んでしまったにすぎない。このいい加減さは連合赤軍に通じるところがる。
 いい加減に殺されてしまう運命の日本人と、権力の冷徹な確信で例外なく殺されるヨーロッパ人。権力としてはどちらが残酷なのか、どちらがより望ましいのだろう。いまだに私は結論を出せない。


 どっちがイイのか解かりません。ただ、年とって来ると、日本人の曖昧なとこ好きになってきた。

p280「必要な事実が得られるまでは考えてはならない。考えれば考えるほど恣意的な可能性を弄び、蓋然性の迷宮に迷い込んでしまうことになるから。それは思考することではなく、恣意的な想像に淫しているにすぎないと」


 未遂に終わった毒殺事件が、くどいほど延々語られる。日本酒AとB。鍋AとBで燗にされた銚子六本と七本。容疑者は素直に証言してくれないから、突如、日本酒Cが現れる。しかも毒の入ってたAだけは特級品とくる。その特級品は冬至の神事用で、トリカブトが使われると解かって、徳利αとβも登場。そして、徳利○と×(どう読むのか解からなかった)も追加されてしまう。結局、家族の者が善意で取り替えた日本酒Cにも毒が入って居た。故に取り替えられた徳利αとβにも毒が入ることになり、家族の善意は無効になるがそれでも、犯行計画はギリギリセーフで阻止される。実は……って、後から真相次から次へと出されて、それ以前の議論って意味ないじゃんって、脱力させられる。

 犯人以外の証言が出尽くした時に、やっと、神事に特級品の酒が使われることを知らなかった人間が犯人じゃないか、と言う結論を導き出す。知っていたなら、日本酒AとC両方に毒入れる必要ないから。だがこれも、犯人は神事を知らなかった人間と思い込ませようとした、犯人の罠の可能性もまったく無いわけでも無い。もっとも犯人は単純な思考の持ち主だった。ここで、ナディア犯人にカマをかけ自白させる。他の証拠で自信あったからだろうけど。

p311「自分を穢れていると感じ、どのような犠牲を払っても自己浄化しなければならないと思う倫理主義の欲望が倒錯的なんだから。穢れた自分から逃れるには、自分達の穢れを一身に集める特異点を発見し攻撃すればいい……」
 何百万と言う死者にたいする政治的そして倫理的な責任が、たしかに昭和天皇にはある。しかしそれは、戦中派や戦後生まれの日本人総体の責任の集約点にすぎない。天皇暗殺という「大逆」は、テロリスト自身の処刑に帰結するだろう受難と重ね合わされ、おのれの穢れを一掃する特権的行為となる。破滅に向かう決死の飛躍は、同時に決定的な自己浄化の企てとして倒錯的に思念された。
 どうしてわれわれは、あのようにも過剰な自己処罰の欲望に駆られたのか。「大逆」を試みて処刑されることでしか解消されえない決定的な悪、穢されたい罪の巣としての自分、醜悪きわまりない私……。



 かつて特異なイラストを描いてガンダム人気に貢献した、警察署長が手柄を立てることになる。鷹見澤家の引き籠りの少年は自衛隊入隊を希望するガンプラヲタク。中学生の妹は摂食障害。祖父の遺産を引き継ぎ、女にだらしない父が居なくなれば、解消出来る問題なんだろうか。
 クイーンの「Yの悲劇」(こっちはドラマにもなったので記憶している)「厄災の街」(読んだ筈なのに、まったく記憶に無い)がモチーフになっているので、てっきり犯人は緑かと思った。
 殺人計画と読めるワープロで打たれたテキストYとⅩに、手書きで記されたZの存在を指摘するところなんか、ナディアの従妹もなかなかやるなと思う。日本語勉強中だからこそ、日本人だからなぁなぁで読み落としちゃう部分にも目を光らせることが出来た。上と右、神器と神ギ。私もよく手書きで書く時、メンドクサイ漢字をカタカナで書くことがあるので解かる。

p413「初代のオーギュスト・デュパンから歴代の名探偵は、一人の例外もなく厳密な推論と称して詐欺師の口上まがいの出鱈目を唱えてきたにすぎない」


 結局、幾ら推論を重ねても、これが正解! と言う決定打は無い。ある程度で見切りをつけて、この視点で行こう! と、容疑者にはったりカマをかけれる勇気のある者が探偵役になれると言うことか。外れれば、詐欺師と同格に口だけの奴、と非難される覚悟を持ってなければ出来ないよね。







    ↓ よろしければポチッと押してやって下さいまし。
    にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ

    にほんブログ村

    人気ブログランキングへ

    関連記事
    スポンサーサイト

    tag : 昭和 笠井潔 青銅の悲劇 小説 天皇 神祇 トリカブト 毒殺 ガンダム 引きこもり

    コメント

    Secret

    プロフィール

    唯

    Author:唯
     読書感想が主です。探偵が登場する本格ミステリー好き。
    と言っても、難しいことは解らないのでトリックにはさほど関心無く、登場人物のやりとりを見るのが好きなだけです。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    フリーエリア
    ↓よろしければポチッと押してやって下さいまし。 にほんブログ村 小説ブログ 小説読書感想へ
    にほんブログ村

    人気ブログランキングへ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。