スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

小説感想:笠井潔『サマー・アポカリプス』

             
アポカリプス(黙示録)⇒秘密を語る書物
yjimageapo1.jpg

 灼熱の太陽に疲弊したパリで見えざる敵に狙撃されたカケルを気遣い、南仏へ同行したナディアは、友人の一家を襲う事件を目の当たりにする。中世異端カタリ派の聖地を舞台に、ヨハネ黙示録を主題とする殺人が四度繰り返され……。二度殺された屍体、見立て、古城の密室、秘宝伝説等、こたえられない意匠に溢れる、矢吹駆シリーズ第二弾。



↓ 以下ネタバレあり。この作品、ミステリーの部分はそれほど印象に残らなかった。




    61SWF1QT9NL__SS500_.jpg 第一の殺人で、凶器の始末の仕方が、ロアルド・ダールの『大人しい凶器』を連想した。凶器全然思いつかなかったし。まして、けっこう気が利いてイイひとかも~と思った犯人、あの時さりげなく凶器始末してたんかい! 残った金具が『大人しい凶器』では骨の部分に当たるのかな。 

     ナディアからは似た者同士に見える、駆はシモーヌに問う。

    「無辜の千人の子供を面白半分に虐殺しようとしている権力者の前に、拳銃を持った君が居るとしたら、いったい君はどうする。千人を救うために君は引き金を引くか。」


     これが出来ない人は、運動家じゃなくて、ナイチンゲールを目指せばイイのにと思う。ボランティア活動に熱心な信仰深く慈悲深く人望のある、上流階級の奥様で満足出来れば良かったのに。
     ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』で、弁護士の二男が大審問官を語り、聖職者の三男に問う場面を思い出した。アリョーシャと一緒に「ええ、そうです! 殺すべきです!」と叫びたい気分だった私は、危ない方に行きがちな人間なんだろうな。

    「いいだろう。そうすれば君はマチルドと同じ選択をしたことになる。しかし、君はマチルドを否定した。君は分裂し、矛盾している」


    シモーヌの思想も理解出来なかった。彼女のような生き方は好きじゃない。弟が嫌っていた気持ちも解かる。私は弟寄りの人間だから。まず自分の生を楽しみたい。その為には、飢餓と貧困に苦しむ第三世界の人々から、目を逸らせる。裕福な家の出でありながら、体を壊すまで自分がギリギリの生活をして、他人の為にお金を捻出するシモーヌは、聖者にしか見えない。駆も同じようなシンプルな生活しているけど、寄付をしているとは思えない。聖者と言うより修行僧。健康ではあるみたいだし。
    それでも、瀕死の姉を見下ろし、馬鹿笑いで勝ちを誇る弟の姿は嫌いだ。その場で打倒したいと憎しみさえ抱いてしまう。しかし、姉は、利害や私的感情より、思想の方を優先して生きて死ぬ。

     最期は病院で餓死したと言う表現が、私にはどうもしっくりこない。末期になれば食欲無くなるし、「もう、いい……」と点滴を断る患者も居る(苦痛が長引く)。延命治療を断り自然死を選んだってことじゃないのかな。そんな特別な死に方だとは思えなかった。駆との勝負に勝ったと言うより、逃げたなって印象がした。駆に頼めば、弟にプルトニウムのプレゼントを送り返して貰うことも出来ただろうに。彼女にはそんな復讐心は湧き上がらなかったんだろうな。

     ジゼールも将来は、母と同じような運命辿りそうな気がするけど。それもジゼールが選んだこと。駆にとってど~でも良いコト。“すべてよし”、だ。
     思想論争を終らせたくない為に(シモーヌに究極の選択させて敗北感を味あわせる為に)、命がけでシモーヌを助けた駆。もともとそれほどの情熱を持って、革命運動に関わっていたのだろうか。「熾天使の夏」からも読み取れなかった。駆が自分の悪を知り、聖霊を感じ取れるようになったのも、人肉を食う程に(これって喩えじゃないですよね?)過酷なチベットでの修業からだったようだ。

     ナディアが目を傷めると心配するほど、熱い灼を見上げる駆は、フランスの原子炉建設に無関心だ。イリイチは、マチルドも唆していたんだ。『バイバイ・エンジェル』に書かれていたっけ? 読み落としたようだ。イリイチのことを想像すると、『金田一少年の事件簿』や『探偵学園Q』で、殺人事件をプロデュースする組織があったのを思い出した。イリイチの真逆が、東野圭吾の加賀恭介かな? なんて『新参者』観て思った。

    P230 「正義の観念は爆弾のように人を殺戮しうる。人類の総殺戮、世界の総破壊の熱望が逆に過激な正義の観念を底深い深淵の闇から読んだのだ。愛の明示によって憎悪を正当化し、合理化する観念の倒錯これが悪だ。理想社会の名において収容所群島を正当化する倒錯、これが悪だ。かつての僕やマチルド達に国家権力を与えてみたまえ。解放の名において国民の半分を殺戮しつす、どんな宗教的想像力も達しえなかったほどの地獄をさえ平然と創り出すことだろう。」


    imagea.jpg

    「悪の根拠は、“私”への度し難い執着にあった。私と他者が、私と世界が親和しえないならば、他者の方に、世界の方に消えて貰わねばならない……」



     「正義! 正義」と声高に正義を振りかざして決起した人ほど、政権を手にすると残虐な権力者になりがち、と言う哀しい歴史。


     ええっ、そんなんあり? と衝撃を受けたエピソード。乳母制度は日本でも古くからあったようだけど、それって自分の乳飲み子よりも、奥様の子を優先して乳与えろってことなんでしょ。それもまた酷い話だなと思っていたけど。人間様が牛乳大量に頂いて、子牛が……みたいな。自分の乳飲み子が居て乳母の募集されるんじゃなくて、使用人の娘がお館様の御子に乳を飲ませる為、お館様の子を先に産まなければならない、なんて初耳じゃ! 乳母の期間が終わると、報酬を貰って、娘だった母は自分が産んだ子供を連れて、帰郷し結婚する。結構うまい具合に、どの子にももれなく父が与えられ、父の無い子は居ない、そうだ。
     ロシュフォール家に縁あって仕えた男は、子供時代血の繋がらない父から、他の兄弟と差別されてきたわけでは無かったそうだが、それでもやっぱり、一日も早く家を出なければいけないと感じていたそうだ。それが自分からわざと近づいた訳でもないのに、奉公先が実の父と実の妹のお館。男が母の嫁ぎ先で虐待されて育ったとかなら、ここで血塗られた愛憎劇とか起きそうだけど、生い立ちを知っても男は恨みを持たなかった。まして、自分もこの家の子供として権利があるなんて、主張する気もさらさらなかった。仕えていた少女が妹とと知っても、お嬢様と崇める気持ちは変わらなかった。命をかけて守る献身ぶりだったが、妹以上の愛情までそそがずにすんだ。妹の方も、兄以上の感情までは持たなかったが、兄を尊重する気持ちは持っていた。兄には当然の権利があると、夫に宣言する。それが寿命を縮めることになった。
     何時ものように奥様と従僕が岩壁上りを楽しんでいる時、奥様は落下して死んでしまう。ショックと自分が傍についていながら、お嬢様を死なせてしまった責任感から呆然としていると、彼女を墜落させた犯人にさせられてしまう。その時は、もう俺なんか死刑にして下さいって気持ちで、言いなりになったが、刑期を務めている中に、お嬢様を墜死させた犯人に気づく。釈放後、お嬢様が興味を持っていたカタリ派の秘宝探しに躍起になる。犯人への復讐を誓い、お嬢様の忘れ形見の一人娘を守ることを使命に生きる。
     この辺、書く人によって、すっごいドロドロのメロドラマ、悲劇のラブロマンスになりそうなところだな~、と思った。あいにく、作者はメロドラマにも横溝正史等の血族同士が憎み殺し合う話にも関心は無いようで、本編では素っ気なく書かれている。私には、このエピソードが一番印象に残ったとこかも。


    ↓ よろしければポチッと押してやって下さいまし。
    にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ

    にほんブログ村

    人気ブログランキングへ

    関連記事
    スポンサーサイト

    tag : 笠井潔 サマー・アポカリス 黙示禄 カタリ派 矢吹駆 現象学 解脱 原子力発電 フランス

    コメント

    Secret

    プロフィール

    唯

    Author:唯
     読書感想が主です。探偵が登場する本格ミステリー好き。
    と言っても、難しいことは解らないのでトリックにはさほど関心無く、登場人物のやりとりを見るのが好きなだけです。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    フリーエリア
    ↓よろしければポチッと押してやって下さいまし。 にほんブログ村 小説ブログ 小説読書感想へ
    にほんブログ村

    人気ブログランキングへ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。