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小説感想:笠井潔『哲学者の密室』

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あらすじ
開口部を完璧に閉ざされたダッソー家で、厳重に施錠され、監視下にあった部屋で滞在客の死体が発見される。現場に遺されていたナチス親衛隊の短剣と死体の謎を追ううちに三十年前の三重密室殺人事件が浮かび上がる。現象学的本質直感によって密室ばかりか、その背後の「死の哲学」の謎をも解き明かしていく矢吹駆。二十世紀最高のミステリ。


↓以下ネタバレあり。






 まず、とっつきやすい箇所から。 
 

ナディアは、あの日本人を本気で愛しはじめたのかもしれない。
ナディアの恋の行方を心配していた時、父親である自分を疑う必要はなかった。
 しかし、本当にその男を愛しはじめた時、もはや父親には出る幕などありえない。青年との交際が結果として、どのような心の傷をもたらそうとも、それをナディアは自分で解決することだろう。恋は、恋を否定するものに耐えることができない。だから失恋の苦悩もまた生じる。
 だが、愛は、愛を否定するものさえも肯定して、しかも愛でありうる。愛する者に裏切られようとも、愛は失われることがない。ありふれた男や女に、それは強固な信仰をもつ宗教者にも匹敵するほどの肯定する力、神秘的な力を与えうるものだ。

この親にしてこの娘あり、と思った独白。
 

でも、そんな心配なんていらない。わたしは自分がなにをしているのか、しようとしているのか、その程度のことは自覚して行動しているのだ。カケルを好きになって、その結果、不幸になるのかもしれない。でも、それは承知のうえだ。どんなに傷つこうと、わたしはそれをもちろんパパのせいにも、そしてカケルのせいにもしない。
 わたしはわたしなのだ。自分の選択から、喜びを引き出せるのはわたしだけであり、苦痛を強いられるのもまた、わたしである。ほかのだれでもない。ナディア・モガールなのだ。それが人生を生きるということの意味ではないだろうか。



                     三重密室
 自信無げに推理をさせられる駆。自信満々なナディアが込み入った密室トリックを考え出す。ま~頭のイイ娘だからね。父の部下を馬鹿にしている高慢ちきなところが、鼻につく。駆をイリイチから引き離そうとダッソー家から遠ざける為に、一日も早く事件を解決しようと必死になるところは解かる。ただ、お父さんやっと家で眠れると思って深夜に帰って来てるんだから、察してあげなさいよ。自分の推理披露することに夢中になり過ぎて、激務で年を感じているお父さんに無頓着。

 私は、密室ものって単純なのしか思いつかない。ドアを閉じた被害者が鍵を持ったまま自殺。第一発見者が自殺の後始末をしたか、第二発見者に被害者は死んでると思させて、その人の隙をついてその場で殺すって言う、パターンね。シンプルイズベストですよ。

 そんなんで、収容所の密室は先に所長の独白を読んでいるから、密室作ったのは彼では無いことが解かる。ハンナが寝室の鍵を持って自殺。玄関の閂は、所長を閉じ込めるためヴェルナーが掛けたと推理した。雪の足跡は吹雪だったんだから、正確には解からないんじゃないの? 

 東塔の密室は、被害者が卒倒して(貧相な年寄だから)頭打って、まだ死んでないと解かった医師がナイフで刺した。そんなんじゃないのと思っていた。
 

もしも駆が死んだら、わたしも子供を殺されたハンナのようになるのだろうか。生きたまま死んでいるような、実存の壊死。ハンナとは違って、小さな愛の可能性に囲まれているわたしは、なんとか気をまぎらわせ、気を取り直すことができるかもしれない。であるにしても、五月からの濃密な不安感は、矢吹駆という青年がわたしの存在可能性の中心点であることを告げていた。



三十年前の収容所の事件も、森屋敷の事件も同一犯。愛する者の魂を殺された、男の復讐でした。

収容所の密室。真実:ハンナと犯人の共謀。窓辺で拳銃を構えて待ち受けるハンナを、外から射殺した犯人は、所長の足跡を辿ったり飛んだりして、自分の足跡を誤魔化した。
東塔の密室。真実:犯人は密室なんて作る気は無かった。密室になったのは、偶然。東塔の鍵も手に入れてたけど、喚起窓と、廃屋の五階が、森を間に一直線につながっていることに気づき、被害者に妻も拉致されてることを見せつけて、射殺しようと計画していた。三十年経った今も狙撃の腕に自信があったから。それが被害者の腕時計が七分遅れていたため狙撃するチャンスを逃し、喚起窓に置かれた自分の短剣に被害者が驚いて、短剣と共に墜落。
三十年前囚人だったガドナスとナチス側だったシュミットが、あの時代の看守も囚人達と同じように、宙吊りにされた死だったのではないかとの言葉から、緑のトンネルの存在に気づく駆。

 ヴェルナーがイリイチから聞いた話によると、所長は三十年前に殺そうとしていたハンナが隣の寝室で自殺したことに衝撃を受け、それ以来抜け殻のようだったと言う。所長が衝撃を受けたのは、初恋の女性に拒まれたことが原因では無く、彼が否定していた尊厳ある死を遂行されたからだろうか。そんなことでハンナの魂が救われるわけがない! とヴェルナーは復讐を実行する。このヴェルナーの三十年越しの復讐には、なんか同情出来ない。衝動的にナイフを突き立てたジャコブの行いは解かるし、同情出来る。本人さえもどういう感情で動いたか解からないだろうけれど、それは運命だったとしか言いようが無く、ジャコブに罪は無いと思う。それに対して、ナチス戦犯を捕まえ裁判にかけようとしている組織から、獲物を独り占めにして、やはり密室に演出して格好よく死のうとしているヴェルナーに反感さえ覚える。

 ハンナが収容されたのが他だったら? と考えてしまうから。美人と言うことで、息子と一緒にガス室に直行とはならなかったろう。では、ハンナは息子の死を知らされた時点で、自ら命を絶つことが出来たのだろうか? そこで死ねたら、立派な尊厳死だと思う。息子と言う生きながらえる理由が無くなったとしても、生きる方に身を委ねてたら? こっちの方が自然だと思う。そんなに長生きは出来なかったろう。所長ほど、初恋の彼女を大事に扱ってくれる看守は居なかったろう。そうだった時、ヴェルナーはハンナを殺した看守を見つけ出し、同じように復讐したのだろうか? 

ヴェルナーがナチス側だったと言うことが、どうにも納得できない。ユダヤ人狩りが始まっているのに、身重のか子連れの恋人を置き去りにして戦地に向かったんだから、そんなに同胞達を責められないと思う。ドイツの哲学者よりずっと、ナチスがやっていたこと解かっていたんだから。ヴェルナーの部下シュミットは三十年経った今も、ユダヤ人に対してすまないとと思っている。ヴェルナーにはそれが感じられない。むしろ、あのユダヤ人達と言ういい方からして、今でも見下している感じがするし。自分は死んだように工作してあるから、ドイツから裏切り者と追われる立場じゃない、いわば安全圏の身の上。ナチ戦犯を裁きたい人は大勢居るだろうに、自分一人の恨みで独り占めしちゃうところがエゴイスト。ハンナを自分の手にかけれたからそれでイイじゃない。後はユダヤ人を救うために奔走するとか、ナチスのやったことを洗いざらい公表するとか、逃げも隠れもしないで戦後を生きて欲しかったな。コフカ収容所の囚人500人を助けたことを免罪符にして、自分は正義側で裁かれる側では無いと思っているところが、嫌だった。アヒルと蔑称されていた所長の気持ちの方が解かるような気がした。ハンナが死を願い、ヴェルナーが死を与えたと言う気持ちは解かる。所長に復讐したい気持ちがハンナにもあったのか。

610T3V9J5CL__SL500_AA300_.jpg この森屋敷ダッソー邸、厳選された使用人が客とむやみに遭遇しないように、機能的に造られている。東塔と西塔の部屋が見晴らしの良い広間なら、イイ屋敷だなぁ~と思った。忘れたいけど忘れられない記憶を、臭いまでつけたリアルなパノラマで再現し、その中で囚人服を着て自殺したエミール・ダッソー。彼もまた、外に出られないなら、徹底的に内に籠ってその中で死ぬことによって、外に出ようとしたのだろうか。企業家で大成功を収めた彼は死ぬまで狂っていなかった。それもまた残酷な話。


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 読書感想が主です。探偵が登場する本格ミステリー好き。
と言っても、難しいことは解らないのでトリックにはさほど関心無く、登場人物のやりとりを見るのが好きなだけです。

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