スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

小説感想:笠井潔『オイディプス症候群』

 私にとって矢吹駆シリーズ二作目となり、やはり盛り沢山の内容にもう驚かなかった。それでも、もう少しテーマを絞って、半分の400P位に纏めて欲しい気持ちに変わりは無い。『探偵小説論序説』と共に、2003年本格ミステリ大賞をW受賞した作品。

 中央アフリカで発見された奇病。その奇病に冒されたウイルス学者である友人に頼まれ、ナディア・モガールと矢吹駆は、アテネに向かう。目的は、ある資料を友人の師・マドック博士に届けるためだったが、博士は、なぜかアテネを離れ、クレタ島南岸に浮かぶ孤島「牛首島」に渡っていた…。「牛首島」の不思議な建造物・ダイダロス館に集ったのは、ナディア・モガールと矢吹駆を含む十人の男女だった。島を襲った嵐のため、孤立化する島の中で死体が発見される。その死体に施された装飾の意味は?謎が謎を呼ぶ中、次々と殺されていく訪問客…。はたして彼らがここを訪れた真の意味とは!?一六〇〇枚に及ぶ記念碑的探偵小説


↓ 以下ネタバレあり。

51yqUZ1jg1L__SL500_AA300_.jpg

51fakRZ7wuL__SL500_AA300_.jpg


 まず、とっつきやすい、ど~でもイイ箇所から。
 一人で日仏合作の映画を観に行ったその帰り、駆の屋根裏部屋を訪ねるナディア。駆も映画館に誘ったが、映画そのものに興味無いらしく断られた。このナディアが観たハード・コア・ポルノの題名に、作者の洒落っ気を感じた。邦題『愛のコリーダ』牛に引っかけてある。仏題『官能の帝国』エイズ撲滅キャンペーンに引っかけてある。
駆のベッドに座り、駆が同行してくれることに安心して、テイクアウトのパンを一人で食べるところなんか、無邪気と言うか……特別な好意持って無い友人止まりの男性ならともかく……二十歳過ぎのパリジェンヌはこう言う状況意識せずにいられるらしい。好き好きオーラ全開で接近してるナディアに対し、机の椅子から一歩も動こうとしない駆は植物か? 「アテネまであなたが同行するのよ」って命令するようにナディアが言って、それに頷くだけの駆とのやりとりが、可愛らしいって言うか可笑しかった。



 哲学、同性愛、ウイルス感染さまざまな問題を取っ払って、クローズ・サークルものとしてだけ観ても、面白い作品だと思う。私、閉ざされた孤島、館物もろ好みなんですよ。綾辻行人の館シリーズとかね。見取り図が小野不由美ってのも萌ポイント。このひと旦那さんの館物の見取り図も書いてたっけ? 
すごいうっかりしてた点、ダイタロス館って名前からして地下に迷路があって当たり前なのに、ナディアが見つけるまで、思い浮かばなかった。

 クリスティ女史の有名な作品では、メンバーの一人一人の死を示すインディアン人形が、ここでは大きな牛神像で表らされていた。牛神像が置かれている一階から三階まで内回廊が吹き抜けでなければ(十月になった途端セーターでも寒いってとこが難点)、こういう館シリーズの中で住みたい館No1じゃないだろうか。

ギリシア神殿を模したダイタロス館に集う十三人の男女、フランス、アメリカ、イタリア、日本、登場人物がバラエティに富んでおり、ロケーションも映像として美しくイイと思う。とても2、3時間でこの作品の世界観出せないだろうから、連ドラで作って欲しい。日本で制作出来るとしたら、アニメかゲームだろうな。全編漂う哲学論議って、日本人に馴染めるのかな? アメリカのしっかりしたドラマチームに制作してもらっても、公開が無理そうな内容じゃないだろうか。大企業から有名団体から猛反発くらいそうな気がする。


  事件の整理整頓どこまでネタバレすべきか? 迷宮入り

第二章ダイダロスの墜落 ミノタウロス島に行く前のスファキオン海岸で、顔のつぶれた墜落死体が発見される。免許書があったレンタカーが海に沈められ、ホテルの部屋は指紋が拭き取られていた為、加害者が被害者になり代わって、孤島に行ったとも推理された。

真実:被害者は、犯人Yが誘拐した時の相棒。主人が妻に言うには、崖からの墜落事故だったらしい。ほんとうか? 


第一の事件 被害者が二階の図書館を出て間もなく、三階から女の悲鳴が。上に居た者が手摺から一階を覗いてみると……吹き抜け一階の一番目の牛神像に身体が刺さった状態で発見される。酔った勢いの事故か、自殺か、殺人かが判断出来ない事件。被害者は楡の紙切れを握っていた。

各自部屋に戻ると、パスポートが無くなっている。ホスト役の博士がみんなを確認する。
深夜、ナディアの部屋に忍び込んだ用心深い駆は、パスポートを所持して晩餐に向かったから盗られてないと言う。

真実は、酔っていた被害者が、三階の手摺に置いてあった楡の葉をとろうとして誤って落ちた。都合よく一番目の牛神像に刺さったのは偶然か?

孤島閉鎖 嵐の中を無理に船を出して難破。運転していたのは管理人と思われる。このとき管理人の妻、夫を心配するあまり防波堤に出て、客が見ている前で、波にのまれる。

真実は、電話を不通にし船を出して館を孤立させることは、最初から計画にはいっていた。主人夫婦の命令で逆らえなかった管理人。

第二の事件 三階からの墜落死。第一の事件に便乗して、犯人Yが楡の紙切れを握らせた。二番目の牛神像に刺さるように落としたかったがならず、角に血をつけとく。

第三の事件 犯人ⅹ、水中銃で容疑者の男性を射殺する。ヒヤシンスのイヤリングを握らせる。水中銃を放置し、犯人Yに見つかる前に逃走。その後、悲鳴を上げた女医を犯人Yが、犯人Ⅹがやったように射殺する。犯人Ⅹが、男性にまた楡の紙切れを握らせたと思い込み、犯人Yは女医にそうする。そのミスが、殺人犯は二人居ると気づかれる。館に戻ると三番目と四番目の牛神像の角に血がついていたが、何時の間にか四番目の牛神像だけ血が拭われていた。その殺しは犯人Yだと言う、犯人Ⅹの告発だった。

第四の事件 アリアドネ邸で主人が水中銃で死んでいる姿を、窓から見るナディア達。玄関から密室を抉じ開けて部屋まで入ったら、自殺したような様子だが、死体は消えていた。
この前から、駆の姿が見えなくなる。

施錠されてなかった小屋 二人の死体と残った水中銃 弾丸の無い拳銃があった。
この小屋が施錠されてなかったのに、主人は探偵に、アリアドネ邸の鍵もついた鍵束ごと渡していたことから、主人は犯人Ⅹではなく、犯人Ⅹと共犯でも無いと駆は解かる。
駆は初日から、主人が身分を偽って館に来ていることに気づいて、「王は漂流した」と紙飛行機でメッセージを送り確認する。

第五の事件 自分の寝室で自作自演を演じた主人が、ゴムボートで孤島を出た後、スファキオンの埠頭に戻り、水中銃で撃たれ波に乗せられ岩に打ち上げられ島に帰って来る。
真実は、イリイチを殺そうとしたが返り討ちにあった。そんなこと知らないナディアは、自分の推理が間違っていたことに気づき、恐怖から水中銃を持って自室に籠城する。

第六の事件 主人が雇っていた探偵が灰皿で頭を割られ、同じ部屋に居た人間も同じ目に合い血だらけの頭で、犯人を追うと言う。ナディアはこの時落ちていた写真から、オイディプス症候群を感染させたイリイチの相棒であり誘拐犯でもある、犯人Yの正体に気づく。指摘されて、犯人Y、探偵を殺したのも自分だと自慢げに自分の犯行を語り、自分を襲った人間を始末すると息巻くが、牛神像の前で犯人Ⅹに水中銃で射殺される。

アリアドネの復讐 犯人Yを襲い殺したと思われる人物から逃れる為、地下にさまよったナディア。逃げ惑う彼女を、犯人Yを襲った人物と駆が後を追う。玉座でまだ水中銃を構える犯人Ⅹに、駆は復讐は遂げたことを伝え、最後に生き残った容疑者の命を助ける。拳銃の弾丸を何故海に捨てられたのか? 主人はイリイチを拳銃で射殺する計画だった。
犯人Ⅹはトラウマから銃が打てない。


そして事件のあらましを語り終え最後に、この連続殺人を惹き起こした真の犯人は、三階の自室の窓からマニキュアの瓶を落とした君だ、と言う駆。一階の一番目の牛神像の角にマニキュアがかかり、それを血に見た犯人Ⅹが、復讐の運命を告げるカロスの神意だと思い込んで、三階の手摺に、百科事典に載っていた楡の切りぬきを置いたことが始まりだった。

 そんな風に言われたら、単に粗忽者女性ナディア罪悪感感じるわな。駆ったら、わざわざそんなことまで教えてあげる必要無いと思うに。ここで名言を吐きます。これ私、座右の銘にしたいかも。

「不注意だったきみが悪なのでは無い。責任を負えないことまで責任を感じてしまうこと、何時も正義の側に身を置いて居たいと自堕落に願ってしまう精神的な弱さこそ悪なんだ。どんなに苦く感じようとも、この真実をきみは飲み下さなければならない」




 少しでも哲学論議を理解しようとすると頭が、♪鳶がグルリと輪を描いたホーイのホイ♪ って状態になるから、現象学の始めと終わりの触りだけ。


「……ここにあるものは彼方にあるものだ。ここにないものはどこにもない」
 駆には、どうしてもイリイチという壁が必要なのかもしれない。外に出るために、膚が破れ血が流れ、頭蓋骨が壊れるまで石壁に頭をぶつけようとしている。もしかして駆が望んでいるのは、イリイチに殺される運命ではないだろうか。分厚い石壁に、頭蓋骨が割れるまで頭を叩きつけること。イリイチに殺される瞬間に、はじめて外に出ることができると予感して。


『きみたちは血の海と血の一滴にどんな違いがあると思っているんだ。殺人も拷問も、現にあるという現実からのみ承認されなければならない。それは人間の鏡だからだ。一人死のうが百人死のうが同じことだ。(中略)人間たちは人間である限り逃れることのできない必然性に巻き込まれて殺しあうのだ。パンのために殺し、殺されないために殺す。……きみたちの殺人は、人間であるというこのどうしようもない事実に強いられて実行されたものでないが故に、真に犯罪的なのだ』


↑ここは駆の言葉に、同意した。


 

ラスコーリニコフは自己欺瞞に陥っている。あのロシア青年のように必然性のない殺人者は、運命に流されて殺してしまう殺人者よりも犯罪的なのだと。





「私は他人を殺さない。だから他人も私を殺してはならない」と言う約束が社会契約論。

「他人を殺してもよいには2つの立場がある」

第一の立場「私は他人を殺してもよい。だから他人は私を殺してもよい」

第二の立場「私は他人を殺してもよい。しかし他人は私を殺してはならない」
「世界が必然的に私の世界と現れる以上、私と他人は同格の存在ではないのだから。私が消えれば世界も消える。だから、私の世界の中にある他者は私を殺してはならない。私を殺せば、私を殺した他者も消えてしまうんだ。しかし私は他者を殺してもよい」


↑それなら、駆が私の夢に過ぎないなら、私は駆を殺すことが出来る、んじゃないのかな?

……わたしが駆の夢に過ぎないと思うなら、私は駆を殺すことは出来ない。
「だったら駆は、自分のことをわたしの夢に過ぎないと思っているの」
駆は指で、ナディアの涙を拭う。
「そうさ、僕はきみが見ている夢に過ぎない」



↑この時ナディアは、私は駆を殺すことも出来るし触れることも出来る、とかなんとか言って、抱き付いちゃえばイイのにと思った。


↓ よろしければポチッと押してやって下さいまし。
にほんブログ村 小説ブログ 脚本・シナリオへ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
関連記事
スポンサーサイト

tag : 白いページ 小説 感想 笠井潔 オイディプス症候群 超長編 孤島 連続殺人 現象学

コメント

Secret

プロフィール

唯

Author:唯
 読書感想が主です。探偵が登場する本格ミステリー好き。
と言っても、難しいことは解らないのでトリックにはさほど関心無く、登場人物のやりとりを見るのが好きなだけです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
フリーエリア
↓よろしければポチッと押してやって下さいまし。 にほんブログ村 小説ブログ 小説読書感想へ
にほんブログ村

人気ブログランキングへ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。